5.水泳と初恋と

中学二年になった春、クラス替えがあり、ある男子生徒を一目で好きになりました。
それまでの好きとはまったく違った感覚でした。
毎日土手の彼方から彼が現れるのを教室の窓から眺めていました。
十五才の春は私に恋をプレゼントしてくれたのです。巷では「ブル-カナーリー」というポップスがはやっていたころでした。

彼が土手のところに現れると私の胸はこのメロディーが鳴るのです。
胸が痛みました。恋をすると胸が痛くなるというのは本当のことだと実感したのもこの頃です。この男子生徒が存在しているだけで十分しあわせでした。 そのころの私にはこの男性が信じられないほど長い間、そう、人生の大半に渡って私の心に住み着くことになるなど知る由もありませんでした。
?歳になった今もどうしたわけか彼が好きです。私の人生の七不思議のひとつです。

兄は私が中学二年のころ水泳をしていました。
予科練から帰って人生に希望をなくしていた兄が、家業の印刷の合間に長良川で水泳をするようになりました。
高知の国体で優勝したのをきっかけに兄は地元の新聞に載ったりしました。
初恋の彼とはじめて交わした会話は「お兄さん、今日、国体の試合やろ。」「はい」でした。

当時男女が話をすることは十分周囲の注意をひくできごとでした。私はうれしくてなりませんでした。
彼はバスケット部のキャプテン。女子生徒のあごがれのまとでした。彼の声を忘れまいとして何度も心の中でくり返しました。彼は人望があり何度も学級委員をしていました。
私は何とか学級委員になりたいと真剣に思って必死で勉強したのもそのころでした。

中学三年生になると、二人は別のクラスになりました。
ちょうど二階の廊下にでると下の教室が見えました。お互いに見つめ合っていました。修学旅行のとき、「写真とらしてくれ」と彼が言いました。
私は「いや、恥ずかしいから」といって駆け出しました。
そのあと、ラブレターをもらった私が有頂天になって、口さがない友人の耳に入れた挙句の果て、私の初恋はあっけなく終わりました。
ある日突然、彼は私の視線を避け始めました。いまだに謎です。高校入試のころは私の暗黒時代でした。顔も見てもくれなくなった彼。それでも好きだという感情はずっと続きました。高校も同じだったのに一度も顔を合わせることもありませんでした。

私は水泳部員として真っ黒になって泳ぎました。
高校一年の夏は鎌倉国体に代表で出たのですが予選落ち。びりから二番目という成績でした。そのあとにも彼とは何度もすれ違いをくり返しました。
結局、また彼に失恋してしまいます。
彼のことは結婚しても、子どもが生まれても気にかかっていました。

「思いは、そして夢は実現する」という理屈でいけば彼と結婚できたかもしれなかったのに、私の夢はあっという間に破れてしまいます。
ところが人生には不思議なことが起こります。
20年後に彼と再会することになるのです。

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